近年、特別支援学校または地域の学校において、点字・拡大教科書で教科学習をしている視覚障害児童生徒のうち、発達障害や知的障害等の重複により点字や墨字だけでは文章の理解が困難(点字教科書の触読だけでは1行読み飛ばしてしまう、また拡大教科書や墨字教科書を目で読んでいるだけでは意味の理解が難しい等)、あるいは、中途障害や視力低下による点字使用への移行途中のため触読だけでは授業についていけない、拡大教科書の地図やフローチャートといった視覚的資料の全体像をつかみにくいといった児童生徒が増えつつあります。
日本ライトハウスでは、平成25年度の文部科学省特別支援教育研究事業において、このような課題を持つ視覚障害児童生徒が、点字・拡大・墨字教科書と「音訳教材(*)」を併用し、いわゆる‘聞きながら読む’状態にすることで、読み飛ばしをしなくなる、本文の内容を正しく理解しながら文字を追うことができる、かつ、図、表、グラフ、写真等の視覚的資料の内容も分かる、といった効果を確認しました。
(*)「音訳教材」:「音訳」した音声データを使用した音声教材です。音声だけで視覚的情報を的確に伝える肉声による読み上げ技術を「音訳」と言います。
「音訳教材」のニーズと有効性
視覚障害児童生徒が使用する音声教材においては、児童生徒一人ひとりのニーズや学年、教科に応じたスピードが重要であり、また、図、表、グラフ、写真等の視覚的資料に対する適切な音声説明が必須です。本事業では、日本ライトハウスが長年にわたり培ってきた視覚的資料の専門音訳技術を用いた「音訳教材製作マニュアル」および「音訳教材取扱説明書」を作成し、関係団体等に配布・周知いたしました。
また、「音訳教材」は、児童生徒にとどまらず、視覚障害教育の専門家を配置できず点字教科書の学習サポートが十分に行えない環境にある地域の学校や、視覚障害児童生徒が在席する視覚以外の特別支援学校の教員にとっても、学習指導に役立つツールであることもわかりました。
平成25年度に配布した「音訳教材製作マニュアル」および「音訳教材取扱説明書」は、下記からダウンロードできます。
詳細:平成25年度文部科学省「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業(障害のある児童生徒のための教材普及推進事業)」
「音訳教材データベース」の開発
平成25年度文部科学省事業で有効性が実証された「音訳教材」の製作・提供をめざして、日本ライトハウスでは平成26年度から、同省の「音声教材の効率的な提供方法等に関する調査研究」事業において、教科書の視覚的資料の音訳データを蓄積するための「音訳教材データベース」の開発に着手しました。
詳細:平成28年度文部科学省「音声教材の効率的な製作方法等に関する調査研究」
視覚的資料の専門音訳者の養成
「音訳教材」の有効性の実証や「音訳教材データベース」を構築する一方で、視覚的資料の専門音訳者の養成が最大の課題となっています。「音訳教材」を支える視覚的資料の専門音訳技術を有しているのは、全国に散在している音訳ボランティアの一部のみで、視覚障害児童生徒のニーズに応えきれていないのが現状です。これは、「音訳教材」を必要とする児童生徒だけでなく、大学で学ぶ視覚障害学生や、就労している視覚障害者にとっても、視覚的資料がある専門書が音訳できる音訳者は無くてはならない存在です。
日本ライトハウスでは、平成27年度に全国4か所で実施した視覚的資料の専門音訳研修会を皮切りに、視覚的資料の専門音訳者の養成事業を行っています。
- 平成27年度「視覚的資料および専門書の音訳技術研修会」報告
- 平成29年度 専門音訳講習会「視覚的資料音訳コース」